揺光

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  そういった隙の無い外見的イメージに反し、涼子自身の人柄は柔らかい。 むしろ柔らかすぎて自分らしい形を忘れてしまうほどだった。 かつては敵愾心を剥き出しにして周囲に棘を振りまいていたが、紆余曲折を経てその棘の鎧は脱ぎ去ることとなる。 今では本来の穏やかで大人しい少女の一之瀬涼子として、ありのままの姿で人と接していた。 そこに至る過程において、安土を精神的に救ってくれた『仲間』とメンバーを同じくする『仲間』、すなわち同一のグループの存在の影響が大きかったことは涼子の胸の内に感謝として刻まれている。 「今年もよろしくね。……成宮さんも一緒だったらよかったのにね」 穏やかな声とともににこりと笑ってみせた彼女に、安土もまた微笑で応えた。 安土と涼子は去年から同じクラス、そして『仲間』である同じ部活に籍を置いている。 そこにさらにもう二人。 去年同じクラスだった少女と、担任兼顧問教師がおり、その少女を除いて今年もまた同じクラスに固まってしまったのだった。 「成宮さんは友達も多いし、オレらと違ってどこに放られようとうまくやれそう」 「そうだよね……見習いたいくらい」 苦笑しあうが、その内側は切実なもので、安土も涼子もけして人づきあいが上手い方ではない。 コンプレックスの塊として生きてきたために、人と好意的に付き合う方法を知らず、関係を築くことすら拒絶していた安土。 自分というものを見失い、厳格な両親の傀儡としての生き方を辿った結果周囲に敵ばかり作ってしまった涼子。 不器用さと素直さにおいて、この二人は似たもの同士だった。  
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