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那賀の思考は極端だった。
完全に元に戻るか、リセットをかけるかの二択しかない。
自分自身がプレーできずとも側で支えるような立ち位置にいけばいい、とはいかないようだった。
その理由ならば既に語られた。
側で見ていて我慢できるほど浅い愛ではないし、耐えられるほど大人にはなれないから。
「……あとは気持ちにさえ折り合いが付きゃあな」
重たい声で呟く。
ゼロかイチしか選ぶつもりのない彼は、ゼロを完全に切り捨てる覚悟を決めなくてはイチを選ぶこともできないのだ。
小数点以下は認めない決断を、下さなくてはならない。
「……それでさ、悪いんだけど」
「うん?」
急に視線を上げて、那賀は安土を見た。
それから右手の指を揃えて顔の前に持ってくる『ごめん』のポーズをとると、申し訳なさそうに言う。
「そっちの部に入るのも、もう少し迷わせてくんないかな。転部、一回しかできないんだろ」
「その一回もケチっちゃうんだ。ふーん」
すぐさま瑠維が横槍を入れたものの、那賀は苦笑して流した。
もう彼女の扱いを心得たのか、それとも前の学校でこういった会話に慣れていたのか、それとも那賀個人の沸点が高いのか。
それのどれなのかは安土にも涼子にももちろん瑠維にもわからなかったが、彼が慎重になる理由についてなら、瑠維を除く二人にはなんとなく想像がついた。
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