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一度選択に後悔を残した那賀にとって、これ以上後悔を重ねたくないと思うのは当然のことだ。
特に、彼にとって大きなウェイトを占めるものに関わることなのだから、なおさら慎重にならなくてはいけない。
これは那賀の問題であるし、自分たちに出来ることで確実なのはこの学院のルールからはみ出ないよう、もしもの場合になったら居場所を提供することだけだ。
それなら、これ以上ここで話すことはない。
「……分かった。でも、何かあったらすぐ言ってね」
力になれることは、なってあげたい。
その気持ちだけは変わらないことを伝えると、那賀も頷いて応じた。
「さんきゅ。……あー、あとさ、あの」
それからすぐさま、ばつの悪そうな顔をする。
言いづらそうに口ごもりながら頭を掻いて、やがて意を決したように顔を上げた。
「あの先輩。俺の代わりに謝っといてくんないかな」
「……陣野先輩のこと?」
麻衣の名前を出すと、那賀は「そう、その人」と食い気味に肯定した。
もっとも、この場にいる人間に共通して面識のある『先輩』など、麻衣以外にありえないのだが。
どうやら那賀は名前を失念していたらしい。
「かなり失礼な態度取ったと思うしさ……せっかく気にかけてくれたのに。でも、直接会えるかわかんねぇから」
「うん、一応伝えておくね。きっと気にしてないと思うから大丈夫だよ」
きっと気にしていない、を強調するように、安土より先に涼子が了承を伝えた。
麻衣が気にしていないかどうかは、昨日の彼女の発言を思えば疑問が残る。
別れた直後、那賀の態度にひっかかるものがあることに最初に気が付いたのは麻衣なのだから。
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