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「そっか。今日はありがとな。なんだかんだお前らにぶちまけてすっきりした。……成宮帰っちまったけど」
結果的に、那賀の口から出てきたのは感謝だった。
彼は自分がみっともないことをしているのを自覚していたのだ。
だから全てを吐露することを躊躇っていたし、それと同時に絡まった想いのやり場を求めてもいた。
安土や麻衣がいくら手を差し伸べても出されなかった膿は、瑠維が強制的に押し出してくれたことになる。
吐きだされたものに、あとは整理をつけるだけ。
これからどうするか決めるのは、那賀自身でしかできない。
「いやいや、オレ達はなにもしてないよ。那賀君が自分で気付いたんだし……上手くいくといいね。色々と」
なにもしていない、心からそう思った安土は、彼にとっての謙遜も卑屈もなかった。
知らないのだ、『ただ聞いて受け止めてくれる』だけでも、その人にとって大きな救いになりえるということを。
そして那賀が感謝しているのは今日の会話だけでなくて、昨日からのことも含めてだということに気が付いていない。
不器用な彼の人となりをなんとなく把握した那賀は僅かに口角を上げ、さんきゅ、とだけ呟いた。
それから安土は、那賀とは教室棟一階の昇降口で別れ、涼子とは部室棟一階の階段で別れた。
目的地へと歩みながら、今日の出来事を反芻する。
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