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さて、と涼子もまた周囲をちらりと伺う。
それは自分だけが安土と『仲良くおしゃべり』していることへの引け目を感じているからだということに、肝心の安土は気が及ばない。
男女二人でいようが男二人でいようが、それは友達と話しているなら全く同じだと感じている彼が気付くよしもなかった。
姉のことを笑えないくらいには安土の常識も欠如しているし、価値観においても同じことが言える。
当然そのことにも気が付いていない。
そうでなくとも彼は卑屈気味なので、驕ることがないのは不幸中の幸いだった。
「余ってる人とかいたら適当に声でもかけてみようかなー……なんて思ってたんだけど、誰も余ってないよ……」
「そりゃ、何人かは去年同じクラスだった人が絶対にいるわけだしね」
はあとため息をついた涼子に、当然のことであるように答えた。
その論法で行くと、今年は安土君と私がまたずっと二人一緒ってことになっちゃうんだけど、という言葉は呑みこんで、ただため息として漏れるばかり。
安土は黙っていても目立つ。
いくら本人が大人しかろうと、その『普通ではない』容貌は嫌でも人目を惹いてしまう。
目がどうの髪型がどうの以前に、ただ単純に顔立ちが整っているのだ。
体格は華奢すぎるし頼りないほど薄っぺらいが、身長と顔は悪くない、いやむしろ良い――というのが同学年の女子からの評である。
涼子もそれを偶然耳にしたことがあり、高確率で一緒にいることが何かに対して申し訳なくなったくらいだった。
安土自身がそれを望んでいるのだから、涼子が引け目を感じる必要はどこにも全くない。
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