夫がいない

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頭が痛い。 もう声は聞こえなくなったけれど、まだ頭が痛いわ。 私は電話機の前で踞(うずくま)っていた。 「風邪をひいてしまうよ」 またあの男だ。 男は私を抱えようと腕を回してきた。 慣れた手つきなのが気持ち悪い。 「さわ、触らないでよ!」 男を突っぱねる。 頭が痛い。 何なの。何なのよ。 私が何したっていうのよ。 「私は何もしていないじゃない! 夫を亡くして心が苦しいのよ!私には夫しかいなかったのに!夫を亡くした私は一人なのに! あんた誰なのよ!夫を騙(かた)って!私は騙(だま)されないわよ!こんなおばさんを相手に何が目的なのよ……!」 はあはあ、と息が上がる。 入院中も ほとんど何も食べることもできなかったし、帰って来た昨日からは何も口にしていない。 私はふらふらしていた。 足にも力が入らない。 吐きそう。 男が手を広げて近付いてくる。 来ないで、来ないで! 私は壁に背中を押し付け、必死に立っていた。 頭痛がピークに達して、頭の中が真っ白になる寸前に、男の顔を見た。 男は泣いていた。
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