夫がいない

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気が付くとまたベッドの上だった。暗くて静かで、夜になったみたいね。 また あの男が私を運んだのだろうか。気味が悪い。 あの男がいる以上、私はきっとおかしくなってしまう。 出ていってもらえないのなら、私が出ていくしかない。 私は寝室の窓から外に出た。 寝室は2階。 真っ暗な夜の闇。 バルコニーの冊を掴んで外側を伝い歩く。 季節は春になりかけているとはいえ、寒い。私は裸足。寒い。 54歳になって夫を亡くし、こんなことをするはめになるなんて。 ふぅ、と気を抜いた瞬間、足を踏み外してしまい、腕だけでバルコニーの冊に宙ぶらりんにぶらさがってしまった。 何もかも嫌だ。 私は涙と鼻水が出てきて、者繰(しゃく)り上げて泣き出した。 「な…あにやってんだよ!!!」 寝室にいない私を探して、開いている窓からバルコニーに出てきた男が、上半身を投げ出して、下にぶらさがっている私に強く叫んだ。
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