夫がいない

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「落ちたらどうすんだよ……!何やってんだよ……!」 私を引き上げたあとベッドに座らせ、男は無気力な私を強く抱き締めた。 「お願いだから……!お願いだから、ごはんを食べて……」 私は寒くて寒くて震えていた。 「お願いだから……」 この男も震えている? 何がしたいの? 「何がしたいの……何が目的なの……?」 夫以外の男に抱きしめられるなんていつぶりかわからない。 私は抱きしめられたまま訊いた。 「君は俺の妻なんだ。君の知ってる〝夫〟は、君の夫じゃない」 何を言ってるの?こんなに鮮明に夫の姿が浮かぶのに。 しぐさや私を見る瞳。一緒に過ごしてきた時間。 何もかもが〝夫〟との思い出なのに。 男はゆっくりと私の両肩を掴んで離れ、私の瞳をまっすぐに見つめる。 「ねえ、あなたは誰なの?」 私は男に訊いた。 男は また辛そうに眉間にしわを寄せる。 「じゃあ、君は誰?」 私……? 私は私よ。 「加賀 小百合」 男は唇を噛んでいた。
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