やさしい夫

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そう、私は加賀 小百合よ。 初めて結婚したのは29歳の頃で、相手は派遣された会社の社員だった。 義務的な感じで ただ籍を入れただけの結婚生活は1年も経たずに終わった。 両親を早くに亡くし、身寄りのなかった私は同居生活に溶け込むことが出来なかった。 当時のことはあまり覚えていない。 そして44歳のとき、私は出会ってしまった。 笑うと目尻の下がる、少し焼けた肌の、優しい優しい私の夫に。 私は夢中だった。 年上の彼は女の扱いが巧(うま)かった。 今まであまり好きではなかった夜の営みも、とても気持ちよくて、消極的な私から求めるほどだった。 私は夫が大好きだった。 「もう……やめてくれ……」 夫に出会う前、出会ってから、を思い出していたのに。 また若い男が遮る。 「……こんなおばさんを騙して楽しいの?」 歳のわりにはきれいにしていたつもりだけれど、最近の若者は熟女好きが多いとかいう類なのかしら。 男はまた私が逃げないようにするためか、ベッドで私を後ろから抱きしめるようにして横になっていた。 私は怖いという気持ちより、諦めの気持ちだった。 この男が何をしたいのかわからないが、私はもう疲れていた。
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