やさしい夫

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「大丈夫なの?もっかい病院に行く?」 男は水の入ったコップを差し出しながら、私に声をかける。 私は口元にタオルを当て、首を降る。 きっと更年期なのね。 歳はとりたくないわ。 ソファーにもたれかかっていると、ふとテレビの横の棚の上、飾られたたくさんの写真たてに目が行った。 そうだわ、夫との写真があるじゃない。写真を見せて納得させればいいのよ。 夫は写真を飾るのが好きだった。 「そこに、私と夫が写っている写真があるわ。見てちょうだい」 ソファーからでも見てわかる。 あれは私と夫よ。 男は棚の上にきれいに並んだ写真たての中から1つを手にとった。 写真をあまり見ずに、私に寄越す。 渡された写真には私と夫が写っていた。 「これが私の夫よ。あなたじゃないの」 簡単なことだったわ。初めからこうすればよかったのね。 きっと私は事故後でパニックだったのだ。 悲しそうな彼の顔をちらりと見て、また写真たての私たちに視線を落とす。 なにかがおかしい。 手が震える。 写真たてがガタガタと私の手により揺れている。 「私……私と夫……わた私は……」 唇も震えている。 混乱する。 何、何が、何が起こっているの。 「君は誰なの?」 男が私に訊いてくる。 私……〝私〟が誰か……?
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