やさしい夫

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「いやっ……いやあああああ」 頭が痛い。頭が、頭が痛い痛い痛い。 (お母さん) またあの声がする。 うるさいうるさいうるさい! (お母さん!お母さん!) うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい 頭が壊れてしまいそう。 男は必死に私を宥めようとしてくる。 「落ち着いて、ゴメン、悪かった。君は君のままでいいから。ゴメン」 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい (お母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さん) 頭の中の声が消えない。 どんどん大きくなってくる。 「ぃや…………やあああああああ」 (お母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さん) 「落ち着いて、大丈夫だから、大丈夫だよ」 「ああああああああああああ!!!」 私は男にすがり付くように抱きついた。 頭の中に響く声と、頭の痛みと、この混乱を、私は、男にすがった。 私はすがったのだ。 この、 私の、 〝私〟の〝夫〟に。
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