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「林檎」
ふと名前を呼ばれて顔を上げました。
聞き覚えのある声だったのです。
「あんまりにも戻ってこないから心配になって…」
声の主は有紀ちゃんでした。
隣にしゃがみ、私の背中を優しくさすってくれます。
きっと有紀ちゃんは、私と加賀君がこうなることを察していたんじゃないかと思えてならないのです。
それ程までに、有紀ちゃんの声は優しく、冷静でした。
「有紀ちゃん、加賀君がね…」
「うん」
「別れようって…」
「…うん」
私は、涙を拭くことさえ忘れ、正面を真っ直ぐ見つめ、滲む視界の中、有紀ちゃんに先程の出来事を伝えました。
相変わらず、有紀ちゃんは私の背中をさすっています。
こんな時に限って、すももの姿は見当たりませんでした。
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