271人が本棚に入れています
本棚に追加
「それじゃ、これにサインしてくれる？」
きっと加賀君が、私の元に戻ってこないであろうと思っている岬君にむくれていると、岬君は、にっこり笑いながら、紙とペンを出しました。
それを受け取り、横書きされている文章を左上からなぞっていきます。
“丸井林檎は、加賀大地の情報と交換に岬大地と一日デートすることに同意する。”
と、書かれています。
一体いつの間にこんな物を書いたのでしょうか……
つまり、契約書ということですね。
私が紙を見つめ固まっていると、有紀ちゃんが、隣からそれを奪いました。
紙は、バラッと大きな音を立てました。
「……あんたねぇ」
有紀ちゃんは、内容を読みながらわなわなと手を震わせています。
「悪いけど、僕は現実主義者でね。証拠がないとどうも落ち着かないんだ」
岬君は、焦るそぶりも見せず、いつもの笑顔を見せます。
「林檎が約束破るわけないじゃない」
「それはもちろん、わかってる。でも君は違うよ、七瀬さん。丸井さんに何か吹き込まれても困るからね」
「ッ、こっちの台詞よ！」
有紀ちゃんは、舌打ちをすると、紙を岬君に投げつけました。
しかし、軽い紙は、ぺらっと宙に舞い、その場に落ちただけでした。
最初のコメントを投稿しよう！