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「林檎はさぁ…」
その名前に反応した。
普段はグラウンドが見える裏庭に入る道にいたが、その日たまたま体育教師の半田がこっちに向かってくるのが見えたから裏庭に移動した。
それだけだったが、すぐ上の階で話声が聞こえたのだ。
耳を澄ますと確かにアイツの名前を呼んでいた。
ちゃんとした会話が聞こえてくるわけではないが、真上にアイツがいるのかと思うと何だか落ち着くような錯覚に陥った。
休み時間の度に廊下で話をする習慣がある事を知った俺は、アイツを気にしている素振りなど一切見せていない仲間に口実をつけて裏庭へと移動した。
そんな矢先だった。
その手紙を受け取ったのは。
中学からのツレの光輝(こうき)が言ったように風に飛ばされない為に重みをつけて下に落としたのかもしれない。
あるいは、何らかの事情でその手紙を捨てたのかもしれない。
理由なんて何でも良かった。
そこに書いてある事実だけがただ嬉しかった。
“彼女にしてほしい”
そう書いてあったのだから…
あの丸井林檎が自分の彼女になる。
そう思ったら自然と足は二年D組に向かっていた。
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