萃まれ夢想よ――

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うんざりするほどの熱気を放っていた太陽も今は山の向こう側に沈み、空の頂には少しだけ形の歪んだ月が鎮座している。 熱の大元がいなくなったおかげでひんやりとした、実に過ごしやすい気候になっているのだが、そんな中俺はかきたくもない汗を流しながら道無き道を爆走している。 何故か……それは―― 「わはー、待て待てー」 「誰が待つか!!」 ――いつぞやの金髪少女、ルーミアにしつこく追いかけ回されているからである。 そもそもの発端は俺が“もしかしたら小傘は森の中にいるのかも”という安易かつ馬鹿げた思想を持ってしまったからだ。どうしてそういう考えに至ったのか、あの時の自分に問い質したい。 森の中に入ること一時間、適当に歩き回りながらも小傘を探していたのだが見つかったのは小傘ではなくルーミア。目と目が合った瞬間、俺は身を翻し、ルーミアは俺を追いかけ始め、今に至るというわけだ。 「もうすぐで追いつくぞー」 「ッ!?」 さっきよりも大きいルーミアの声で現実に引き戻された。走るスピードを保ちつつ振り返ると、さっきより微妙に距離が縮まっていた。 くそ、このままだとまた捕まって捕食されてしまう。それだけは勘弁だ。こうなったらさっき偶然使えた新能力を! 視線の先に広がっている空間を視る。視えた空間を脳内である物に形成する。創るは階段。 これで準備完了。後は出来た物を駆け上がるだけ! 誰の目にも見えていない、ついさっき出来たばかりの階段上を駆ける。段々と高度が上がっていき、ついには森を抜けるまでに達した。 これが時空を操る程度の能力の応用の一つ、“空間固定”。自分が指定した空間を自由に組み替え、自在に固定することが出来る。それは多分俺以外には見えないし触れない。元々無いものを有る物に変えているわけだしな。
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