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◆
「どうだ?」
「うん、ちょっとはマシになったかな。ありがとう」
あの後、俺は霊夢から水の入った湯呑みを二つ――もう一つは俺の分らしい――貰い、それを両方とも小傘にやった。だって俺は飲まなくても大丈夫そうだし。
小傘の言う通り、少し顔色が良くなったかな。まぁ水だけのおかげじゃないだろうが。
「どう致しまして。無理に起きてなくてもいいぞ」
「ううん、起きてる。その方が楽だし」
掛け布団を押しのけ、小傘は敷き布団の上に座る。本当か、それ?かなり疑わしいんだが。
「それに……」
「ん?」
「キサラギ君の旅の邪魔になりたくないし」
そう言って小傘はニッコリと笑う。直視出来ずに、俺は視線を逸らしてしまう。
これじゃあ昨日と立場が逆だな。昨日の小傘は多分恥ずかしさから、今の俺は小傘の真っ直ぐな笑顔に堪えられずに、それぞれの相手から目を逸らす。
「どうかしたの?」
「いや、なんでも……」
参ったな。今はまだヤヨイとだぶらないからいいが、もしもだぶってしか見えなくなってしまったら、俺は……。
「ん? さっき俺の旅の邪魔になりたくないって言った?」
「うん。言ったよ」
「それってつまり、これからも俺に付いてくるの?」
「そうだよ。駄目って言われても勝手に付いてくからね」
いや駄目じゃない、むしろ大歓迎だけど……。
俺は小傘と初めて出会った時のことを思い出す。あの時、小傘は俺に勝手に付いてくると言った。こいつにしては珍しく自分の発言を覚えてたな。もう忘れてるかと思ってた。
「まぁキサラギ君に私のことを知ってほしいっていうのもあるんだけどね」
「……そうだな」
いつかは俺も、答えを出さなきゃいけないんだ。例え辛い結果が待ち受けていても、俺は小傘の告白に答えなければならない。
その時が来ないことを祈りたいけど、それは必ず訪れる。時は俺が止めない限り止まらないのだから。
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