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「ちょっとそこに立ってくれない?」
秋穂はそんな新垣の様子を気にすることなく、出来上がった穴の前にしゃがみ込んで右斜め後方を指差す。
「え。ここ、ですか?」
「そうそう。それでこっちに背中向けて」
「こうですか」
「完璧。もし生徒たちが来たら、取りあえず笑顔で手でも振って。挨拶運動してる感じで怪しまれないように」
「……あの。どうしてそんなこと…」
「これ見つかったら面倒でしょ?だから隠してほしいのよ」
なるほど、と新垣は納得した。確かに、今の位置に自分が立っていれば、小柄な秋穂の体は生徒たちが登校して来る校門側からは見えない。
「終わったら言うから、それまで絶対に振り向いちゃダメよ」
「でもまだ8時になってないし、生徒たちが来る気配はないですよ?」
「油断大敵」
「いや、そうですけど、少しくらいなら埋めるの手伝え――」
「ガッキー」
秋穂が新垣の言葉を遮る。
「あんた死骸とかに耐性ないんだから、無理に手伝わなくていーの。それよりしっかり見張りしててよ」
そこで新垣は気づいた。これは秋穂なりの気遣いだと。
「わかった?」
やっぱり優しい人だ。口元を緩ませながら、新垣ははいと頷いた。
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