2.それはまるで

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「すげえ」  誰かがぽつりと呟いた。  もうとっくに朝のHRは終わっているが、教室内にいつものような騒がしさはない。悔しそうに教室を出て行った莉奈と、それを慌てて追い掛けて行った晴美以外、ほぼ全員が大人しく席に着いていた。 「やっぱりあいつ、"マジョ"だわ」  また、呟きが聞こえた。  秋穂の動作ひとつひとつを注意深く観察していた佐伯は、違う、と首を小さく左右に振った。    違う。あいつは、真島秋穂は"マジョ(魔女)"なんかじゃない。  頭を抱え、瞼を閉じる。その裏に浮かぶのは、黒。ざわざわとうごめく、黒い影。  違う。全然違う。あいつは、あれは、あの"黒"は――。  佐伯は唇を強く噛み締めた。血が滲んで咥内に鉄の味が広がっても、その力が緩むことはなかった。
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