序章【真島秋穂】

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「おはようございます。今日も早いですね」  朝の挨拶をして、先程うまく伝わらなかった言葉をもう一度発してみる。すると今度はきちんと伝わったようで、城崎はああ、とそれに応えた。 「お前はまだ着替えもしていないのか」 「ええ、まあ。さっき起きたとこなんで」 「職員室住まいは呑気でいいな」 「先輩も一緒に住みます?ここなかなか――」  快適ですよ。  言い終える前に秋穂は城崎に頭を叩かれた。パシッという小気味よい音と共に、脳みそが揺れるような衝撃が走る。 「……そんなに怒らなくても。軽い冗談なのに」 「この俺にくだらない冗談を吐くな。脳が腐る」  労るような手つきで頭頂部を撫でる秋穂に、城崎は冷たく言い放った。  この男には冗談も通じないのか。しかも「脳が腐る」って何だ。秋穂は目の前で何故か頬を赤らめている城崎に、心中で舌打ちをした。
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