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先程の会話にあった通り、秋穂はこの職員室に住んでいる。
夜間警備をするという条件の元、あらゆる設備の使用が許可されているのだ。2年程前、秋穂は学校の理事長とそういう契約を結んだ。それからずっと、職員室は秋穂の家だ。
「…それより、いつまでパジャマ姿でいるつもりだ。見苦しい。さっさと着替えろ」
自分のデスクに荒々しく腰掛けた城崎は、椅子の背もたれに体を預け、さらには足まで組んで、気を取り直すように秋穂に命令した。
俺様モード全開。秋穂は小さくため息をついた。
「見苦しくないでしょ。可愛いでしょ。このアヒルさんパジャマ」
「どこがだ。目がチカチカする」
「しかもこれすごく暖かいんですよ。夏といえど夜はなかなか冷えますからね。重宝してます」
「…人の話を聞け」
「あ。あと、裏地にもアヒルさんがいらっしゃいましてですね、これがまた可愛いの何の。今脱いで見せてあげますね――」
パジャマのボタンを外そうとした秋穂の額に、日本史の教科書がヒットした。角じゃなくてよかったが、それでも十分痛い。
教科書は投げるもんじゃないぞと言いかけて、やめた。
「いいから早く着替えて来い」
「…あいあいさー」
有無を言わせぬ城崎の声に、秋穂は額から血が出ていやしないかと心配しながら敬礼した。
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