動き出す歯車

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うわ―。 下着まで水に濡れてて気持ち悪い。 上半身裸だし、吹いてくる風で肌寒い。 それに、なんだかアイリスの香りが漂って… …………………………。 アイリスだって!? 俺は慌てて起き上がった。 辺りを見回すと、その景色はいつもの夢のそれで。 え、なに?俺とうとう天国にでも旅だっちゃったの? 確かめる為に、俺は自分の頬を思いきりつねる。 「痛ってぇ!!」 夢じゃない。 ならやっぱり俺はあの渦に巻き込まれて天国に旅立っちゃったんだ。 だってそうとしか思えない。 この風景は非現実的過ぎて、夢の中でないとするなら、他に思いあたらない。 …………………………。 川に溺れた小学生を助けた高校生、代わりに溺れて死亡。 そんなニュース流れたら、なんかかっこいくね? もしかして報道で取り上げられて、自宅にカメラ入るかも。 そしてピンクひらひら髭親父がインタビュー受けて…… って駄目だろぉぉぉぉぉぉぉ!! あの姿を世間の目に晒す事になると、確実に俺の評価は下がる! なんとしても阻止しなければ! 思い切って立ち上がって気づく。 俺、死んだんだった。 これじゃあ止めるも何も出来ねぇ!! あの恥ずかしい姿が世間の目に晒されるぅぅぅ! 頭を抱えて絶望していた時だった。 「相変わらず面白い男だな、お前は」 「は!?面白いって!?絶望にうちひしがれている俺に向かって面白いだと!? あんたは人の不幸を喜ぶ非道なやつなのか!?」 「別に喜んではいないが。お前のその馬鹿げた顔を久しぶりに見ると、笑いが込み上げて来る」 「馬鹿げた顔だって!?死んだ人間になんという暴言!?俺、泣いていい?」 「泣くな。汚い」 「ひでぇ!!」 ………ん? 今俺誰と会話してたんだ? 何か久しぶりとか言わなかったか? 恐る恐る声のした方を見ると、そこにやつは居た。  
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