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アイリスの花の匂いがする。
周りは花に囲まれていて、空は黄昏時の色をしている。
なんとも幻想的な景色だ。
ああ、これは夢だ。
そう自覚するのは何度目だろうか。
俺は何度もこの景色を夢で見ている。
気づくといつの間にか其処に立っていて、その景色を眺めているのだ。
そして決まってこの夢の世界で俺はある少女と出逢う。
ほら、今日もだ。
「ナツメ!待った?」
「いや、全然待ってないよ」
「そう?ナツメはいつも優しいね」
そう言ってその少女は微笑んだ。
雪の様な白い肌に綺麗な長い銀髪の髪、まるで宝石の様な翡翠(ヒスイ)色の瞳をしている彼女に、俺はいつも目を奪われる。
その存在自体が幻想的で、異世界に来たような、そんな感覚に陥るんだ。
俺が現実の女子に興味が無いのはこのせいかもしれない。
そして気づくと毎日のように見ていたこの夢に、俺は懐かしさのようなものを感じていた。
居心地がいい。
他愛の無い話をして、彼女の笑顔を沢山見て。
それだけで満たされたような、幸せな気分になる。
どこか遠くで鐘のような音が鳴ると、それが夢の終わりの合図。
それが聴こえると、彼女は笑顔で言うんだ。
「また、明日ね。」
今日も当然、そうやって終わると思っていた。
…だけど、違った。
鐘の音が聴こえると、彼女の綺麗な瞳には影が落ち、とても苦しそうな、哀しそうな表情を浮かべたのだ。
どうしたんだ?
俺は彼女に手を伸ばす。
だが、その手は届くことはなく、周りの景色がザァッと風の様に消えていって、俺は現実へと引き戻される。
完全に景色が消える前に、
「早く…気づいて…」
今にも消えてしまいそうなか細い声で、彼女がそう言ったのが聞こえた。
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