動き出す歯車

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「何だったんだ…?」 がばりと起き上がり、思わず呟いていた。 あんな表情は初めて見た。 いつも笑顔しか見せなかったのに。 なんであんな哀しそうな表情をしたんだ? それに… 「気づけって……何に?」 解ってる。 所詮ただの夢だ。真剣に考えるのは馬鹿げた事だって解ってる。 けど、何故だろう。 考えずにはいられない。  俺は何処かで何か重大な見落としをしているのではないか。取り返しのつかない事になっているのではないか。 そんな気がしてならない。 俺は自分の掌を睨み付けた。 刃物で深く傷をつけたような痕が残っている。 俺には全く覚えが無いが、物心ついた時からあるものだ。 暫くそうして思考を巡らすが、何かを思い出す訳もなく。 挙げ句の果てに、俺の頭には激しい衝撃が落ちてきた。 「いでっ…!」 何だ!? あまり良いとは言えない頭を使いすぎて遂に脳細胞が爆発でもしたのか!? 衝撃で思わず瞑った目を開けると… 「さっさと起きろ!!メシ抜きにするぞ!!」 ピンクのひらひらレースのついたエプロンをしたゴツい髭オヤジが仁王立ちしていた。 「…うっせぇな、起きてただろうが。」 はぁ、と溜め息をつきながら言うと、ピンクひらひら髭オヤジは再び俺の頭に拳骨を落とした。 「ゴフッ!!」 「黙れ小僧!布団から出ないと起きた事にはならん!とっととメシ食いに来い!」 そう言うと、ずんずんと部屋を出ていく。 「痛ぇ…」 俺は痛みを抑える為に頭をさする。 あのピンクひらひら髭オヤジの鉄拳は並みでなく痛い。 またそれが繰り出されるのは嫌なので、俺はふらふらと部屋を出て朝食の並ぶ食卓へ向かう。 その途中、台所でにやにやしながら何処かで聞いた事のある可愛らしい曲を口ずさみながら目玉焼きを皿に移しているピンクひらひら髭オヤジを視界に入れると、俺は再び溜め息をついた。 「…ツッこむ気にもならないな」 彼がこのような姿をしているのはいつもの事だったからだ。  
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