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「親父があんな顔すんの珍しいな」
17年近く一緒に生活していて、あんな顔を見たのは数度あるかないかだ。
2人家族である俺達は、お互いの大体の性格は熟知している。 親父は元々俺の前で真面目な顔をする様な奴では無い。
鋭い睨みをきかすか、それが嘘のようにへらへら笑っているかだ。
と言っても、へらへらしているのは俺の前位で、外に出ると厳しい顔つきになり、人を全く寄せ付けない。
体格のせいもあるけどな。
それはさながら常に周囲を警戒している何処かの兵士のようだ。
そしてその実態はピンクのひらひらエプロンを家でするようなファンシー好きのふざけた親父だというのは、だれが思うだろうか。
誰も思わないだろうな。確実に。
兎にも角にも、親父があんな顔をするのは珍しいことだったのだ。
徒歩で学校に行く途中の橋に差し掛かった時だ。
武人がその少し手前で待っていた。
「何だよ棗、阿呆ずらして」
「どこが阿呆ずらだ!」
「してたじゃねぇか、口をポカンと開けてよ」
「黙れ武人。その無駄口叩けないように川に流してやろうか」
武人の首を腕を使って絞める。
「や、止めて!息、息できないから!そして死じまうから!」
「嫌ぁ―――――っ!!」
「って悲鳴あげて死んじまうから……って、どうしたんだ!?」
突如聞こえてきた悲鳴に俺たちはその正体を掴もうと発生源を探す。
すると、橋の下に流れている川の真ん中辺りにある流木らしきものにしがみついている小学生くらいの女の子がいたのだ。
「おい、あれ不味いだろ!?」
どうしようと焦っている武人の隣をさっと通り、俺は鞄を置いてYシャツを脱いで川に飛び込んだ。
「棗ぇ!救急車呼んどく!」
「頼んだ!」
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