1.闇に踊る

10/15

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/804ページ
それからシオは考えた。彼なりに思考した。 夏休み、友達もいない間に。 それは孤独な旅に似ていた。合宿、ペネロペに預けられていた時間、検査を差し引いても一月はある。そんな期間を個人の思索で過ごすのだ。 別段部屋に籠もってばかりいた訳じゃない。ベルクロフトやジョゼフに誘われて近くの島に釣りに行ったり、ドルベラットと鍛錬したりしていた。それはそれで楽しかったし、気は楽になった。しかして肝心の問題は解決しない。 ベルクロフトが云う理解をシオは中々出来なかった。頭に浮かぶ記憶は断片的なモノばかりで繋がりが無い。知識や過去は得ても空白は埋まらない。新たな記憶が発生する事もある。だがどれだけそれらが鮮明になろうが駄目だった。寧ろ日に日に巨大化する他者の存在が怖くて、シオは必死に抑えようとしていた。レイルに教えて貰った瞑想を試みてもあの世界には行けない。ノイズ・イン・ブルーに行っても同じで、あのアンセムに会う事は無かった。ベルクロフトが云うには消えたらしい。 シオの思考はいつの間にか肥大化する自分の中の他者を抑圧する方向に傾いていた。 シオは、鎖じていた。 「おいおいお昼寝か?ガキじゃあるまいし。」 嫌みな口調でシオは呼び掛けられた。起き上がって視界に入ったのはジョゼフ・リトルウッドだ。半袖のシャツ姿で、赤いネクタイをしている。萌葱色の瞳が意地悪そうにぎらつく。 「外に出て遊んだらどうだ?いい天気だぜ。テニスでも如何?」 「…どっちが子供だよ。」 嫌そうにシオは云った。ベッドの上で体育座りになる。膝に顔を埋めると藍色の髪が頬にかかった。夏の間髪が少し伸びていた。背も伸びたようだ。
/804ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加