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「シルク・アイリスの言葉を伝えます。」
ヲリエはアインの話し方が奇妙に見えた。意志の強さを秘めている両目に生気が無いと感じたのだ。精巧に作られた義眼を眼窩に嵌め込んだように、彼女は誰かに宿された意志を放っている。
アインはヲリエの観察に気付かないまま、借り物の意志を眼に宿しながらも、シルクの言伝を告げ始めた。
「私達は、悔いている。
皆の心を、想いを一つに束ねた責任を全うせず、ウェルキンを失した悲しみに溺れていた事を。未来を指し示した者として君達に伝えるべき言葉があったのに、伝えなかった。
もう手遅れかもしれない。
もう出る幕はないかもしれない。
だけど、ただ見ているのは耐えられない。ただ未来を迎えるのは耐えられない。
まだきっと、やれる事がある。やり残した事がある。
たとえ誰も望んでいない事でも、私達の独り善がりでも、この想いをあなた達に伝えたい。
ヲリエ、手を貸して欲しい。こんな私達をサンドハーストに繋げて欲しい。
もう一度だけ、私達に力を貸して。」
ヲリエは固く目を閉じ、静かに考える。シルトやリント、彼女を取り巻く者達はその推移を黙って見守る。
ヲリエは深く息を吐いて、ゆっくり瞼を開いた。長い睫毛が沈黙の帳をゆっくりと開ける。
「…具体的には、何をするの?」
リントが勢い良く立ち上がった。全員の目線が集まる。リントは両目をカッと見開き、ヲリエを見据える。胸の内にはちきれそうな激情が燃え盛っているだろう。だが引き結ばれた唇が激情の強く閉じ込めている。リントは肩を震わせ、両腕で体を支え、俯いた。
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