6.風雲逆巻く

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「かーっ…ちゃんと整備しねぇとなぁ、此処も。」 行く手を有象無象に遮る枝葉をどけながらエドガー・B・ボルテールはぼやいた。左手に銀色の玉を持っている。ボーリング玉程の大きさだ。大柄で筋骨隆々とした彼にとって獣道のような森の中は聊か手狭である。太い腕を一振りする度に枝葉はか細い音を立てて折れたり、しなったりしながら道を開けた。 「ちゃんと付いて来いよー!」 エドガーの一声に背後に並ぶ執行部員達は元気良く返事した。 エドガーの部隊は三十人。多く見積もっても二桁は超えないであろうリストカッターに対しては充分な兵力だ。 だがエドガーは油断していない。昼間でも木々のせいで日が差し込まず、木々が視界を遮る森の中だ。奇襲には絶好の場所である上に退却には不向きな場所である。些細な油断が取り返しのつかない敗北を招きかねない。 反面、相手が正攻法で挑みはしないと分かると云う利点がある。奇襲が来ると分かっていれば対抗策はある。 エドガーは汗ばむ顔を拭った。右手が顎髭に触れてザラリと音を立てる。僅かな汗が危機を招く事もある。エドガーはひたすら神経を張り詰めた。空気の流れが告げる密やかなシグナルを全身で追い掛ける。 (来るなら来い。来い、来い、来い…!) 「馬蹄を鳴らせ!スレイプニル!」 不意に、声と光が連動して発生した。 エドガーが素早く向くと繁みから影が躍り出る。
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