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十五分前。
エドガーとは別の位置。
「…サイアク。」
レベッカ・ファトゥナーは恨めしそうに零した。もう何度目か分からない。
「おい!カブトムシいたぞ、カブトムシ!」
そんなレベッカを知る由も無く、先導する男がはしゃぎ声を上げた。
月虎だ。
カーキ色のタンクトップの下にクリーム色の半ズボンを履いている。足には黒いビーチサンダル。タンクトップから出る肩や腕は程良く焼け、引き締まった筋肉を備えている。手にしているのは一対の剣が柄で左右対称に繋がった武器だ。鍔があるべき所に幾つもグリップが付いている。
そんな彼が、この状況で呑気にはしゃいでいるのだ。カブトムシがいただの、トンボがいただの、蜂の巣があっただの、腕白少年のように。レベッカは度々手綱を引いていたが、今はもう諦めた。
(こんな目出度い奴が馬手壱の指かよ…。会長もわかんねぇな。)
ぼやきを脳内に留め、レベッカは他に三十人ばかりいる執行部員を引き連れて追随する。先が思いやられる。緊張感の無さは緊張しているよりも心を不安にさせる。
レベッカは時折手にしている巨大な音叉で木を叩き、耳を澄ませた。ソナーの要領で敵を探知する。だが森の中は障害物が多い。広範囲に音波を広げても枝の動きや虫の羽ばたきにぶつかってしまう。正確な捕捉は難しい。
「心配いらないぜ、レベッカちゃん。」
神経質そうに探知を試みるレベッカに気付いていたのだろう、月虎がにこやかに振り返った。無垢な笑顔だ。レベッカはそれを向けられると惑ってしまう。
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