6.風雲逆巻く

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リカルドは語る。 「まだ魔法が四大元素、五行に基づく属性しか分類されていなかった時代。ある所に酔狂な魔術師がいた。魔術師は当時の魔法の限界点を研究していた。テーマは簡単だ、何よりも強く、完全な魔法。」 リカルドは一人心地で語っている。ルーカは傍らで連絡業務をこなしながら耳を傾けた。 「自然の法則に基づいた魔法はその法則そのものに左右されやすい。当時は科学が未熟だった故に応用の範囲も少なかった。そんな中で彼はある発想を得た。人間の肉体そのものはどうだろうか。どんな状況下でも性能が落ちず、どんな障害も破壊できる肉体を魔法で作れたら、最強の魔法に成り得るじゃないのかと。」 リカルドは語り手に徹し、ルーカは聴き手に徹した。 「今考えるとバカな発想だ。肉体をあらゆる属性に左右されない最強の物質にすればどんな戦況をも覆せると考えていたんだからな。ただ彼は身体強化系魔法にそれは求めなかった。身体強化系魔法は肉体への負荷が激しいし行き過ぎた強化は純正な思考を奪う。だから彼は召還にその可能性を見出した。最強の肉体を召還体として作り出せばいいと。 その結果生まれた魔法が、サハスラブジャ。 最強の肉体を己の一部として無限に精製し続ける魔法。だが当時この魔法は受け入れられなかった。外連味ばかりの一癖ある魔法だしな。 よってこの魔法は暫く捨て置かれた。やがて時代は過ぎ、サハスラブジャはその技術と共に風化していった。だが…ある時代に、ある戦争で、ある国家がサハスラブジャに再び日の光を当てた。サハスラブジャは蘇ったって訳だ。 その、ある国家は徴兵した魔法の素養がある兵士に片っ端からサハスラブジャを身に付けさせた。だがその兵士達は殆ど戦死してしまう。一部の生き残りを除いて…。」 「…まさか。」 ルーカが初めて口を開いた。 「その生き残りって…」 リカルドは深く息を吐いた。高説は終わりらしい。 「アルフレッド・バトラー曰わく、自分は死に損ないだそうだ。」
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