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「ぬっ…?!」
再生して追撃を再開する腕を見て、アルスは首を傾げた。
右だ。
空中で迫り来る全ての腕は右腕だ。
こういう事があるだろうか。
仮に右腕と並んで左腕もあるのなら…。
「しまった!」
アルスは方向転換しようとするが、遅かった。
樹木が折れる音が生まれたかと思ったら足下から大量の黒い腕が這い上がって来た。どれも左腕だ。
「バカなっ…!」
アルスはスレイプニルを縦に傾け、下方からの奇襲を回避する。
左腕がアルスを横切る。アルスは横目で左腕のフォルムを認識した。右腕と同じ黒い骨を継ぎ合わせたような外観。だが良く見ると間接部分が違う。
眼球だ。
黒い、透き通った球体が付いている。カメレオンのような不規則な動きをするそれは、すぐにアルスに照準を定めた。
そして左腕はアルスを通過し、右腕も平行して伸びていく。大量の腕がアルスを取り囲み、やがて百合の蕾のような形になった。
「捕縛されたか…!ならばっ!」
アルスはUターンし、一気に降下した。腕の大元を断つ狙いだ。
だが大元からまた幾つも腕が伸びていく。ただ生け捕りにするつもりは無いらしい。
「ぬううっ!」
回避し、ブロードソードで腕を弾きながらアルスは歯軋りした。
「埒が開かないっ…!」
黒い腕が並んでいる事で日光が遮断される。薄暗い闇の中でアルスはもがく。
踊るように。
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