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「いじめっ子じゃないんだから…。」
ジョゼフが廊下に出ると、ベルクロフトが立っていた。カーキ色のミリタリーシャツの上に薄手のジャケットを羽織っている。青い色眼鏡を直し、呆れ気味に笑っていた。
「あんまりやると嫌われるぞ?」
「加減しますよ。でも今のアイツ、からかい甲斐がありますから。」
ジョゼフはクックッと喉を鳴らし、ベルクロフトと連れ立って歩き出す。
「でも今のシオは悪くないと思いますよ。漸く年相応になったって感じで。」
「悩みの種が少し特殊だがね。」
「突き詰めれば誰にでもある話でしょう?『俺は俺なのか?』ってね。」
「昔の君そっくりだ。」
不意に過去に触れられ、ジョゼフはばつの悪い顔をした。
「やめて下さいよ。昔の話は無しですって。」
「誰にでもある話だろう?」
「あー…はいはい。」
出鼻を挫かれたジョゼフはうやむやに会話をはぐらかす。
ふとベルクロフトが立ち止まり振り返った。視線はシオの部屋に向く。
「結局シオは前に進めないままか。」
「あいつの限界ですかね。」
「今のあいつ、ならな。」
ベルクロフトの口調が冷静になった。
「背を向け続けている。この夏休みの間、ずっとな。」
「放置し過ぎましたかね?」
ジョゼフが頭を掻いた。少しだけ罪悪感を覚えていた。先程のちょっかいもその裏返しだ。自覚はしていた。
「理事長の判断は間違っていない。自分の力で解決すべきモノは自分でやらないと。だがシオはそれを避けている。無意識にな。」
「当然じゃないですか?」
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