6.風雲逆巻く

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「負傷者は並べろ!片っ端から治癒する!」 白い腕章を付けた男の執行部員が大声で指示を飛ばす。それに従い、同じ腕章を付けた執行部員達が素早く動き回り、負傷者に手をかざして治癒魔法をかけていく。 本営の外はさながら戦場だ。 アルスのファイナルパニッシュメントを受けた者達が数十人たむろっている。魔法を使う者は魔力で肉体がある程度強化されているとは云え、光の杭の一撃は大きい。ある者は大きな火傷をこさえ、ある者は切り傷を作っている。酷い者は骨折していた。 そんな者達が一同に会し、呻き声や泣き声を上げている様は見る者を震えさせる怖さがあった。 「…ん?おい!お前達!」 指示をしている執行部員が片隅で固まっている二人に近寄った。執行部員らしい。一人は痩せた顔つきでキャップを被っている男で、もう一人は黒い長髪の男。後者の方が負傷者らしい。傷は見えないがグッタリしている。治癒を受けるグループに混ざらない二人はどこか不自然だった。 「そいつ大丈夫か?意識が無いなら早く治癒を…」 「いやいや結構ですよ。」 キャップを被った男が明るく返事した。場にそぐわないトーンだ。 「こっちはいいから他を…」 「バカいえ!そら、見せてみ…」 いきなり、執行部員の胸倉が掴まれた。 「っっっ?!」 訳が分からず執行部員は目を回す。胸倉を掴んできたのは長髪の男だ。 「…たりぃんだよ。」 男は低く呟く。執行部員は背筋を震わせた。おぞましい響きがある。
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