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「どけ。」
長髪の男が顔を上げた。繊細な輪郭が織り成す顔つきは美しい。
だが、長髪がずり落ち、両目が露わになった時、執行部員の震えは恐怖に変わる。
飢えた獣に似ず、狂った殺人鬼にも似ない瞳。灰色の中により暗く深い混沌を混ぜ込んだような、そんな深淵をその瞳は宿していた。
男、スヴェインの口角が上がる。
「どけ。」
スヴェインが執行部員に強烈な頭突きを見舞った。執行部員は白眼を剥いて卒倒する。
スヴェインの傍らにキャップの男が立つ。
「派手な出だしだねぇ。淑やかなくらいが丁度良いと思ったが。」
「不満か?」
「いいや喜んでいるぜ?顔見りゃ分かるだろう?」
キャップを外して、男、アマデオは悪辣な笑みを見せた。ギョロリとした目が興奮で一際大きくなったように見えた。
「あ、あれ…」
異変を察した執行部員達が続々と集まる。誰もがスヴェインとアマデオを指差し、驚愕から戦慄へと顔色を変えていた。
「スヴェイン・アグリューとアマデオ・シュルツだぁぁ!!」
「うっせぇ、タコ。」
スヴェインは素早くロザリオを模した一対のダガーを取り出す。
「ミッシングリング。」
スヴェインが唱えた瞬間、巨大な、透明なリングが幾つも広がった。瞬く間にリングは本営の外全体を掌握する。物体を透過するモノらしく、輪郭が人間の体を貫いている。
徐にスヴェインは一番手前のリングに沿ってダガーを振った。
刹那、リングに体を貫通されていた者全員が血飛沫を上げて倒れる。所々から悲鳴が上がった。
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