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「あぁ?」
視線を向けると女が立っていた。見た事がある。梓子だ。以前やり合った女だ。長い付け爪を全ての指に付けていた。
「ンだよテメェか。眼中にねぇぞ売女。」
邪険に接する飛白に梓子は僅かに眉を動かしたが、平静を保ったまま話し出す。
「やな云い草だねぇ。ちょっとはしおらしくなって欲しいもんだ。」
「しおらしくすんのはテメェだ。床の間に行きゃあ少しはそうなんのか?」
話は無駄だ。
梓子はそう云わんばかりに首を振った。
そして不意に、右手を振る。
「ブラックアート、足疾!」
言葉の直後に梓子の背後から二つの影が飛び出した。影は目にも止まらぬ速度で飛白を通り過ぎる。
「あぁっ?!」
影は真っ直ぐアルスの下へ向かう。そしてアルスを捕まえて一目散に去って行った。
「何っ?!」
「おいアルス!」
「アンタの相手はこっちさね!」
梓子の一声を合図に、また新しい影が茂みの奥から現れた。
特徴的な髪型と日本刀。
「黛ぃ…!」
仏頂面で、瞳にだけ闘志を灯す黛が飛白の前に立つ。
飛白の表情が複雑になる。
口元には残酷な笑みが浮き上がっているが、目は違う。怒りが宿っている。誤れば爆散しかねない危険な怒り。
飛白と黛が対峙した瞬間、森が一層ざわめいたと、梓子は肌で感じた。
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