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「…ったく、ゴタゴタしてんなぁ。」
月虎は顔をしかめた。
まだ目の当たりにしてはいないが耳は敏感に音を拾う。悲鳴、人が倒れる音、怒号。戦場の気配が近付いている。
月虎は注意深く周囲を観察する。
すると後ろのレベッカが月虎の背中をつついた。
「月虎さん!あれ…」
「んあ?」
レベッカの指す方を月虎が見やると大きな体が木々の間からヌッと出てきた。
ゼルクレスだ。
「なんだ月虎かよ。」
「ゼル!何で此処に?」
「人の匂いにつられちまった。」
ゼルクレスはのんびりした動きで振り返る。後続する人間はいない。
ゼルクレスは肩を落とした。
「…はぐれた。」
「お前…。」
月虎とレベッカ、彼らに従う執行部員達が一斉に溜め息をつく。
「もし、お二方。」
また新たな人影が月虎とゼルクレスの前に立つ。
濡れ色の髪をした梓子だ。月虎は軽く頭を捻る。
「梓…子ちゃんだっけ?」
「お二方、ちょいと回って貰えないかね?うちの配下が一人足止めしているから、加勢して頂戴。」
「おいお前。」
月虎より一回り背が高いゼルクレスが顔を出す。丁度月虎の頭の上に重なった。
「前にも敵がいんじゃねぇか?そっちからやった方が楽だろうが。」
「そっちは黛がやるからお構いなく。」
「一人でかぁ?ンなもん俺達も入りゃあ一瞬じゃねぇか。」
「お構いなく。」
頑なな態度に月虎とゼルクレスは同時に怪訝な顔をする。
「今のアイツは沸騰中でね。ちょっとやそっとですぐふきこぼれるから…構わない方が良いよ。」
どこか屈託がある口調で、梓子は釘を刺した。
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