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「レイル!」
笑われていると気付いたサリアは顔を真っ赤にして怒り出した。普段の他人行儀な態度はすっかり消えている。
「あぁ、ごめんごめん。」
レイルは柔和にサリアを宥める。会長になる前は彼女に呼び捨てにされていた。元来真面目な性分のサリアは会長になったレイルを会長と呼ぶようになった。その実レイルはどことなく距離を感じていたのだ。
だから、呼び捨てにされた事で懐かしい気持ちに駆られた。
またスヴェインと対すると生まれる暗い感情が少しばかり和やかになった。
「あれはユダの能力、30シルバーズだ。能力は事象操作。自然現象から相手が出した術まで何でも自在に操れる。」
「そんな能力、反則だわ!アーツスナッチと掛け合わせたら絶大じゃない!」
口を尖らせて不平を漏らすサリアだが、レイルは余裕そうにスヴェインを見やった。
「いや、勝機は幾らでもあるよサリア。ユダは確かに厄介だけどアーツスナッチはそこまでじゃない。あれはその性質上どうしようも無い制約があるんだ。」
「制約?」
「型落ちだよ。どんな術もその本来的な力は術者しか知らない。アーツスナッチは術そのものでは無く術の記憶をコピーするから術の潜在性までは引き出せない。所詮猿真似なんだ。だからアイツがアーツスナッチで出した魔法はオリジナルの七割しか力が無いんだ。」
レイルは端末を取り出した。
「復讐心で動く人間の末路を見ているといいよ、サリア。僕はそれでも手を差し伸べたんだ。その手を振り払ったのは…アイツだ。」
「それって…」
サリアは質問を止めた。レイルが誰かと連絡を取り始めたからだ。
レイルの両目が陰っている。初めて見たレイルの闇だった。
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