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「んっ……。」
シオは重々しく目を開けた。何時の間にか寝てしまったようだ。頭が重い。体の節々が上手く動かない。眠気が身体中に広がっている。
シオは体に鞭打って起き上がった。窓の外は真っ暗だ。大分しっかり寝てしまったようだが、気分は清々しいとは云えない。デスクの上の時計は十二時を回っている。思いの外長時間寝てしまったらしい。シオは両手で顔を擦った。取り敢えず眠気だけは振り払う。
外に目をやる。月は出ているがやたら雲が多い。疎らに空を流れていく。一つ一つは濃い。鬱陶しいばかりの存在感を出しながら、我が物顔で漂う。
「…はぁ。」
シオは急に切なくなる。夏休み、何をしていたのだろう。見えない侵入者に悩まされ、周りからは無理難題のような問いを出され、独り虚しく過ごしてきた。何の為の時間か分からない。NOISEで戦っていた時、リクやシェリルと喋っていた時、レイルと語っていた時の方がずっと実りある時間だった。今は恋しくてしょうがない。
そう回想していると、誰のモノともしれない記憶が割り込んできた。気を抜けば頭の中がゴチャゴチャしてくる。シオは抑圧の為に頭の中に壁を敷く。そうすれば幾分楽になるのだ。分からない事でも距離を置けば冷静に見詰められる。自分の中の他者も近寄ってこない。
今シオが行使している最善の解決策だ。
それを繰り返してきた。
シオはまた横になった。こんな深夜にやる事は無い。退屈だが仕方無い。怠惰な行動にシオは慢心していた訳じゃない。心の片隅に住まう自分が小さな警告音を発している。動け、動けと喚く。だが自分の中の自分でも、何を思って警告音を発しているかは分からない。
シオは寝返りを打った。目頭に掛かる髪が鬱陶しい。学内に美容室があった筈だ。明日髪を切りに行こう。ベルクロフトが似合っている、大人びたと云うが邪魔なモノは邪魔だ。
切りに行こう。
シオは息を吐いて体を柔らかくする。シーツに溶け込ませるように。
だが、眠れない。
仕方無いと分かりながらも、シオは眠ろうとする。
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