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リクは横目でドロシーを見た。
ドロシーは相変わらず締まりの無い笑顔をしているが目は笑っていない。謀の痕跡が残っている。
リクは舌を巻いた。
恐らくアッシュがレイルのやり方に反発している事はルキアの耳に伝わっている。そこに会長の地位が欲しいと云う情報を流せば二人の信頼関係に陰が差すだろう。ましてやルキアはレイルに忠誠、或いはそれに止まらない信頼を寄せている筈だ。そんな人間に取って誰かの野心は疑心の温床になる。
平静を保つルキアとアッシュの間が、心なしか離れたように見えた。
沈黙が部屋を支配する。
だが沈黙は激しいノックの音でかき消された。
「何事?」
ルキアは怪訝な顔でドアを見た。アッシュが素早く立ち寄り、鋭く尋ねる。
「誰だ?」
「アッシュ!俺だよ、リーシェン!リーシェン・レン!大変なんだ!開けてくれよ!」
アッシュは顧みてルキアに許可を求めた。
ルキアは一思案し、無言で頷いて許可を出す。
ルキアが指を鳴らすと、ドアを覆っていたクレパスが引いてドアの形に沿って穴を作る。
アッシュは慎重にドアを開けた。注意はリクとドロシーに向けたままだ。
ドアが開くと同時に勢い良く顔を出したのは明るく長い茶髪を複雑に編み上げた髪型をした優男だ。汗にまみれた顔は所々煤けている。
「ヤバいんだぜアッシュ!ヤバいんだって!」
「落ち着けアッシュ。何事だ?」
リーシェン・レンは激しい呼吸混じりでまくし立てた。
「クローズドホームの中に敵が潜り込んでんだ!」
リーシェンが云い切った瞬間、爆音が轟き、リーシェンの体がドアの前から消えた。
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