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「アッチンを先に戻したらあたし達を逃がさなかったのに。
信じなきゃダメだよ?自分の仲間。」
「女狐…!」
ルキアが歯を食いしばる様にあざといリアクションを返すドロシーとリクの周りに光の輪が現れた。
「スペースリープ!」
光の輪が急速に縮まった頃には二人の姿は消えていた。
残されたルキアは拳を握り締め、強く床を叩いた。
「おのれっ!」
普段は冷淡だが、品行方正なルキアにしては珍しい、感情的な怒り方だ。ワインレッドの髪を垂らし、端正な唇を歪めて歯軋りする。
アッシュはルキアの背を見つめ、拳を握り締めた。不甲斐なさが胸の中で泥のように滞留している。脳の奥がジンと痛む。捕虜を逃がした事もそうだが、ドロシーにかき乱された事が一番気分を逆撫でする。
結果的に二人はドロシーに踊らされた。掛かるまいと狙ったが裏目に出た。ルキアが一瞬でも抱えてしまった疑念が彼女の体を支配した。
ルキアは浅慮な自分を嫌悪する。生来潔癖であるが故に疑念が増長しすぎた。無意識に自らを束縛してしまった。
矮小な自分を見下ろす苦痛にルキアはさいなやまれた。
「ルキアさん。」
アッシュが云った。
「追いましょう。スペースリープじゃ外には出られない。」
アッシュは気丈だ。自責やルキアへの畏れは無い。冷静に現実を見つめ、次の一手に歩を進めている。
ルキアは髪を直し、立ち上がった。苛立ちで乱れた精神を整える。
「そうね。行きましょう。」
ルキアは素っ気なく返して歩き出した。容易く後輩に諭されまいとするルキアの意地だ。
アッシュは肩を竦め、ルキアに随行した。
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