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「やっばいじゃん。」
ジャクリーンは顔をしかめた。茂みの中からカメラのレンズだけを出してピントを合わせながら注意深く観察する。
「近すぎじゃ…。」
シオはジャクリーンの袖を引っ張って制した。興奮で沸騰するジャクリーンに対し、シオは渋い顔をしている。
二人は本営のすぐ側に潜んでいる。警備が厳しいだろうと覚悟して接近したが、実際は違った。スヴェインとアマデオの奇襲によって混乱状態に陥った本営はとうに陣営の体を失していた。入り込もうと思えばいつでもいけるだろう。
「チーフに伝えるんですか?」
ジャクリーンに持ってこさせられた杖を両手で握り締め、シオは尋ねた。正直この鉄火場に飛び込みたくない。鉄火場が発生する一部始終を見ていたが、気分はざわつく。ジャクリーンが云ったスヴェインと云う青年はレイルと超遠距離での戦闘を続けている。日中屋上で会ったのが初対面だったが、妙だ。
彼を知っている。
今日会う前に彼と会っている。
記憶が勝手に湧き上がって来た。知り得ない深みから記憶が舞い上がって来た。自分のモノじゃない、誰か他人の記憶。
スヴェインと接触したらまた記憶が肥大化するかもしれない。
シオは恐れた。
他者がシオの中で大きくなる事を。
潮騒のように忍びやかに迫ってくる足音がすぐ側まで来ている気がした。
「今は連絡回しても意味無いさ。連絡しても返ってくる訳じゃないし、大したネタが無い。」
ジャクリーンはしゃくりながら唸った。
「なまじスヴェインとレイルが膠着してんのがなぁ…。」
「…乱入ですか?」
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