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「デジャヴ…だな…。」
波を越えるフェリーに揺らされながら、月白リクは呟いた。甲板のデッキの上で、フェンスに寄りかかり、段々近付くサンドハーストを見やる。周囲では小麦色にやけたり、日差し除けの日傘をさした生徒達が思い出話に花を咲かせている。だがリクの意識はサンドハーストに向けられていた。
二ヶ月振りに見たが相変わらずの荘厳さだ。近未来的なデザインの外壁はまだ夏の名残がある日光を受けて煌めいている。プラントもいつものように気ままに浮いている。夏休みの間中ずっと浮いていたのだろうか。だとしたら管理している理事長は凄まじい。
と一方的に賛美を送っていると、アレン・スチュアートが隣に立った。リクは足元のボストンバックを退かしてやる。日を浴びて金髪が輝く。
「やーやっと着いたねぇ。」
「あぁ。遠いな、やっぱ。」
「油断は禁物だよ、リク?君はお尋ね者なんだからさ。」
アレンにからかわれ、リクは口を尖らせる。
「やめろって。闇討ちされる訳じゃ無いし。」
「友人としての忠告。今なら引き返せるよー。温かいスイートホームにさ。」
「勘弁してくれよ…。ってか、お前、家どうだったよ?伯父さんいるんだろ?」
リクに訊かれて、アレンは眉を顰めた。イマイチアレンの反応がぎこちなくなったのを見て、リクは焦った。
「あ、悪い…。」
「悪いと思うなら訊かない。」
リクが萎んだ様が可笑しくてアレンは笑った。
「そりゃあ、いきなし上がり込んで来たからさ。ちょっと人見知り中。まぁ、母さんの兄貴だし、面識無かった訳じゃないし、どうにかなるよ。」
先程一瞬見せた表情とは裏腹な、軽妙な口調でアレンは答えた。リクはその口調にホッとしつつも、アレンがまだ何か、出し切れないモノがあるように思えた。だがアレンは視線をサンドハーストに移していたので、それ以上は問えなかった。
唐突にアナウンスが流れる。リク達生徒の会話が途絶した。
「まもなくサンドハーストに到着します。生徒の皆さんは下船の準備を…」
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