8.ジャスト・ムーブ

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「っっっっ!!!」 メイデンは声にならない声を上げ、口から血を吐いた。洗練されたスタイルの体躯が、九の字に曲がる。メイデンは苦悶を浮かべてヲリエを睨み、失神した。術者の失神によりソーンチェーンは消え、再び二人は重力に引っ張られる。 「やっば!」 ヲリエは素早くメイデンの体を抱え込み、インディクーム・マンデスを翳した。 「ハイウィンド!」 インディクーム・マンデスが光り、グライダーに似た一対の鋼の翼に変形した。 「ふぅ…。」 ハイウィンドが風に乗り、安定した段階でやっとヲリエは安堵した。腕の中ではメイデンが気絶したままダラリと下がっている。 「ぬ…胸は無い癖にいいカラダしてる…。あたしより軽いかな?」 先程までの激高ぶりが嘘のように沈黙しているメイデンを見詰め、ヲリエは呟いた。 「…巨乳じゃないから、当然。」 不意に返事が来た。ヲリエが目を見開いたと同時にメイデンの体から大量にソーンチェーンが伸びてくる。瞬く間に大量の鎖はハイウィンドに巻き付き、メイデンごとヲリエの体を拘束した。バランスが崩れ、二人は落下する。 「なっ、フリス!」 「冗談じゃない。冗談じゃないわ。」 恨めしげに呟きながら、メイデンは上体を起こし、ヲリエに顔を近づけた。 暗く、美しい。 薄紫の髪と悪くなった血色の肌の上に輝く赤銅の瞳と口元から流れる赤黒い血。月明かりの下に薔薇を挿したような。残酷で陰惨だがおいそれと濁せない鮮やかな美しさをメイデンは放っていた。 メイデンの口角が上がる。
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