8.ジャスト・ムーブ

11/45
前へ
/804ページ
次へ
「私が負ける?先手打ってNOISEを封じた癖に逆転されて負ける?嫌よ、そんなの。おいしい立ち回りを貰って惨めに負けるなんて嫌。」 「抵抗なんて無駄よ。もう諦めたら…?」 ヲリエは余裕を装うが内心危惧している。危険だ。メイデンの目に躊躇が無い。火が点いた導火線と同じだ。 一分の隙も無く、何かをする気だ。 「レイルの前で恥をかくなんてゴメンだわ。夜伽しか出来ない雌に何の価値があるの?」 「だからって無茶したら…っ!」 急にヲリエ達の体が傾いた。メイデンが体重をかけたのだ。身を反らし、落下方向を操作している。 「フリス!こんな事っ!」 「私は負けられない!アイツがいくまでの露払いは、私がするって決めたからっ!」 「フリス!」 ヲリエは抗おうとハイウィンドを操るが効かない。それどころかソーンチェーンが体に食い込み、動作を妨げる。 ヲリエの視界に校舎が映る。寮に面した二階の廊下。窓ガラスが並んでいる。教室の壁。人はいない。 「くっ…!」 ヲリエは決死の力で体重をメイデンに掛けた。二人の体が反転し、ヲリエが校舎に背を向ける格好になる。 「お前っ…!」 「うるさい!」 目を丸くするメイデンの頭を無理矢理胸元に押し付け、ヲリエはソーンチェーンが食い込むのも構わず体を丸める。そして堅く目を閉じた。 甲高い破壊音が鳴る。ガラスを突き破ったのだろう。 続いて、鈍い衝突音、息を止める衝撃、痛み。 壁と体がぶつかったのだ。 ヲリエがそう悟ると同時に、彼女の意識は闇に落ちた。
/804ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加