8.ジャスト・ムーブ

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シオの位置から奇妙な落下する物体が見えた。 シオは思わず視線を取られる。もつれ合う二つの人影のようだ。人相までは判別出来ない。だがシオには覚えがあった。よく観察する。人影はNOISEのプラントの下方に空いた穴から落ちてきたようだ。 「…まさか!」 シオは思わず人影に向かって駆け付けようとした。しかし目の前で大量の金属の棒がバリケードを形成する。 ルーカだ。こめかみから血を流しているが弱まっている様子は無い。 「逃がすなよ、ルーカ。奴の存在は邪魔だ。排除せざるを得ない。」 「分かっています。」 背後にはリカルドが立っている。唇の端に血が滲んでいる。 「クォール君!どうして此処に…!NOISEは戦闘対象に入っていないのに…。」 ブリジットの口振りには焦りが垣間見える。予期せぬ人物の登場に惑っている。 「私達の混乱に便乗して仲間を解放する為…ってとこかな。編集室にいるメイデンさん達の気を反らす狙いじゃない?」 エリスが冷静に分析する。ブリジットはエリスの冷静ぶりに感心しつつ、心配した。エリスは仲間思いだ。それもかなり強い。デイジーとの関係を見れば分かる。 そんな彼女が割り切りきるのは難しい。どれだけ冷徹に、ドライに振る舞ってもどうしようも無い凝りは残る。それが判断に狂いを生じさせると知っていながらも取り除けない。エリスの美点が足枷になっている。 エリスが何か重大な失敗を起こすとしたら、因子は間違い無くシオやリク達だ。エリスを信頼してはいるが、あまりにも鮮やかに思い描けるそのビジョンをブリジットには拭いきれない。
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