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鍔迫り合いが始まる。歪な音を立てて、鍔越しに力がひしめき合う。拮抗。些細な油断が均衡を崩す。崩れたら負けだ。
飛白は力んだ。体重をかけ、黛を押し切ろうとする。
するといきなり抵抗が無くなった。
黛が引いた。鍔迫り合いに負けたのでは無い。身を引いていなしたのだ。
黛は素早く飛白の背後に回り、刀を返して切っ先を飛白の背中に向けた。
飛白は舌打ちして横に跳んだ。愚直過ぎた。黛の方が冷静だ。
距離を取った飛白を黛が追いすがる。
十合近く打ち合った。やはり実力は対等だ。ただ黛は頭を使っている。冷静さを維持する事は黛が勝っている。剣術の力量が違ってもそういう所が戦いの結果に響く事がある。
「埒が開かねぇ!」
飛白は吼えて突きの構えを取った。
「山嵐篠針!」
凄まじい速度の突きが槍衾のように迫る。
対して黛はゆっくりと刀を納めた。
「つまらん。」
黛の体が、
、、、
滲んだ。
グニャリと曲がったように黛の体が動き、突きを回避した。飛白が切っ先を動かしても黛は煙に巻くだけだ。かすりもしない。
飛白は目を丸くして攻勢を止めた。
「…てめぇ、それ。」
黛はほくそ笑んだ。
普段も、戦いの時も仏頂面でいる黛が笑った。高慢な笑みだ。
見下されていると感じ、飛白は苛立つ。
だがそれよりもっと大きな怒りを覚えた。
「何でてめぇが使っているんだ!それを!」
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