1.闇に踊る

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深夜、高層ビルの屋上。 六角形型のヘリポートを囲むフェンスの外、縁に腰掛けている男は足下の街を見下ろしていた。絹のように滑らかな、背中まである髪を後ろで結んでいる男は鷹の目のようなつり目を持つ女顔だが、少し太い眉が男らしい凛々しさを作っている。華奢な体つきだが鍛え抜かれた趣がある。右手には槍を持っている。両刃に仕立てられた穂先は鋭利で、柄は2mはあるだろうか。やや短めにしつらえた槍を杖のように突き立てている。服装は喪服のような礼服だ。ジャケットもズボンもネクタイも黒い。優麗に着こなしてはいるが、悲しげな雰囲気を漂わせている。 街々の灯りは夜でも絶えない。夜空の星が地上に落下し、ひしめき合っているように、猥雑な色の灯りがたくさん瞬いている。此処までは下の騒音は届かない。遥かな高みから臨むと、視界の中がゴタゴタしても随分と静かに感じられる。街の中に人がいると云う証拠は灯りだけで、存在そのものはただひたすら遠いだけだった。 「……。」 彼、レイ・アロイスはかれこれ三十分ばかりはこうしている。彼にとってこの行為は退屈では無い。彼なりの意味がある。レイは忠実に、行動の目的を遂行していた。 「よぉ、暇じゃないかい?そんな所でそんな事。」 軽薄な声が投げられてきた。フェンスを乗り越える音がした後に、レイの隣に男が腰掛けた。 左手にバーボンの小瓶を握っている男はレイと同じ年代のようだ。ショートウルフの髪は灰色で、目は爛々とした金色だ。体つきはレイに近しいがレイより小柄で、やや幼く見える。だが自信に溢れた不敵な笑みが彼の印象を大きなモノにする。レイが黒服を纏っているのに対し、男はノースリーブのシャツやジャケットを重ね着し、ハーフパンツを履いている。その格好のせいか、軽薄さに拍車が掛かっている。 「…お前には関係無いだろう。」 レイは無感情に返す。視線こそ男に向けたが、関心は相変わらず足下だ。 「つれなっ!寂しそうだから来てやったのにさぁー。」 「勝手に来た癖に。」 オーバーな男のリアクションにも釣られる事無く、レイは姿勢を崩さない。 「何か用事が?ブルーノ。」 ブルーノ・クラウスターは満面の笑みでレイを見た。
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