8.ジャスト・ムーブ

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「他愛ない!」 黛は片膝をつき、勢い良く居合い斬りを放つ。 「菖蒲神流!」 飛白はうなり声を上げて後退した。鳩尾の辺りに横一線の傷が出来、血が滲む。 黛は歯噛みした。 飛白は類稀な強度の肉体を持っている。生半可な斬撃では傷も着けられない。黛は飛白を両断する気概で斬りかかったがこの体たらくだ。 「てめぇだけは…てめぇ、だけはぁ!」 飛白は傷など諸共せず海老名へ飛び付いた。 「そうだ、我を忘れろ。」 海老名を掴んだ飛白はすぐさま斬りかかる。黛は揺歩で悉くかわした。 「アレを使え、飛白。」 黛の姿が消える。スペースリープだ。黛が飛白の頭上に現れる。 「俺はあのお前と戦いたい。」 「まゆ…」 「石蕗斧頭!」 上段からの抜刀が容赦なく飛白に振り下ろされる。飛白は海老名で受け止めるがあまりの力に地面が窪んだ。土煙が立つ。 直立で着地した黛の足下に飛白が倒れていた。流石の飛白も捌けなかった。体重を掛けられない分、腕力と落下速度を加えた石蕗斧頭はそれだけの威力を持っていた。 飛白は疲弊している。息が荒い。激しく力を発散したが空回った。無駄に消耗した反動だろう。 「…お前は無茶苦茶なだけだ。精強じゃない。」 黛は冷然と云った。 「所詮素質任せの戦いだ。いなし方を弁えれば捌くのは容易い。」 飛白の黒目が黛に向く。おぞましい輝きがある。 「いつだってそうだった。お前は未熟なまま暴れ、武技を汚す。なのに奴は…葛はお前を可愛がった。一角の武人でありながら。」
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