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「他愛ない!」
黛は片膝をつき、勢い良く居合い斬りを放つ。
「菖蒲神流!」
飛白はうなり声を上げて後退した。鳩尾の辺りに横一線の傷が出来、血が滲む。
黛は歯噛みした。
飛白は類稀な強度の肉体を持っている。生半可な斬撃では傷も着けられない。黛は飛白を両断する気概で斬りかかったがこの体たらくだ。
「てめぇだけは…てめぇ、だけはぁ!」
飛白は傷など諸共せず海老名へ飛び付いた。
「そうだ、我を忘れろ。」
海老名を掴んだ飛白はすぐさま斬りかかる。黛は揺歩で悉くかわした。
「アレを使え、飛白。」
黛の姿が消える。スペースリープだ。黛が飛白の頭上に現れる。
「俺はあのお前と戦いたい。」
「まゆ…」
「石蕗斧頭!」
上段からの抜刀が容赦なく飛白に振り下ろされる。飛白は海老名で受け止めるがあまりの力に地面が窪んだ。土煙が立つ。
直立で着地した黛の足下に飛白が倒れていた。流石の飛白も捌けなかった。体重を掛けられない分、腕力と落下速度を加えた石蕗斧頭はそれだけの威力を持っていた。
飛白は疲弊している。息が荒い。激しく力を発散したが空回った。無駄に消耗した反動だろう。
「…お前は無茶苦茶なだけだ。精強じゃない。」
黛は冷然と云った。
「所詮素質任せの戦いだ。いなし方を弁えれば捌くのは容易い。」
飛白の黒目が黛に向く。おぞましい輝きがある。
「いつだってそうだった。お前は未熟なまま暴れ、武技を汚す。なのに奴は…葛はお前を可愛がった。一角の武人でありながら。」
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