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「俺は武人だ…!」
飛白が口を開いた。怒気は衰えていない。
「語るな。不快だぞ。」
黛が鞘で飛白の傷を強く突いた。飛白は眉間に皺を寄せる。
サディスティックな愉悦に駆られているのを黛は感じた。飛白の惨めさが堪らなく愉快に思える。
「不出来な者を贔屓する者はやはり不出来だ。俺に斬られて然るべきなんだ。」
愉悦を帯びた黛の語り口は自然と高揚していく。
「俺が高みに登るのには邪魔なんだ、お前みたいなのは。不出来な分際で俺に並ぶ。」
「黙れ…!」
飛白が呟く。黛は無視して語り続ける。
「葛もそうだ。無能の分際で武技を語るから…斬られるのだ。無様にな。」
「黙れぇぇえ!」
飛白が飛び起きた。歯を剥き出しにして食いかかる。黛は鞘で殴り倒そうとするが飛白の方が速い。右肩に飛白が噛み付いた。
「ちぃぃっ!」
鮫か鰐にでも噛み付かれたようだ。肉を食い破る音が聞こえる。血が吹き出す。
「獣がっ!」
飛白を無理矢理引き剥がし、チャージインパクトで吹き飛ばす。飛白は四つん這いになって着地した。口から血が滴っている。酷い形相だ。血だらけになった顔に爛々と両目が光っている。
「くっ…!」
幸い肩の肉は食いちぎられなかったが出血は多い。飛白に噛み付かれた事が黛の心に陰を差す。
「五体満足で帰れると思うなよ、黛ぃ!」
血が混じった唾を吐き散らす飛白。もう人を越えている。いや元より異なっていたと思える。
飛白を白く靄が取り巻いた。
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