8.ジャスト・ムーブ

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飛白の中にある虚の中の虚。精神の最底辺。 、、、、、、、、 飛白はそこにいる。 気紛れな天女がスルリと雲の上から落ちたように。飛白は普段いる精神の座から落とされたのだ。ハイブリッドソウルを使うと時折こうなる。 当初は不快だった。無我の域に達していない。未熟さの証である。飛白は何度も自分をハイブリッドソウルと一体にさせようとした。今ではちゃんとハイブリッドソウルと自我が一つになる。ハイブリッドソウルの絶大な力を引き出せる。自負がある。 それでも、時折こうなる。 まだ煩悩や雑念めいたモノが心の底にこびり付いているのだろう。取れていないか、生み出す原理が自らにいるのか。何はともあれ除かなくてはならない。 だが飛白は以前よりこんな自分を許せるようになった。いや許せるんじゃない。どう扱えばいいか分からないのだ。 雑念や煩悩、稚拙な信念や思想は戦いに不要だ。飛白が確信する一つの理念。 勘を鈍らせ、武技を貶める。 飛白はそんなモノを持ち得ない。全て捨ててきた。戦いに不純物は残さない方が良い。本当にいるのは闘志。闘志と云う名の欲求。愚直なまでに欲求に応えればいい。 以前飛白は自身と真逆の人間と一戦交えた。リクだ。月白リク。 とんでもないお人好し。あふれんばかりの善意と優しさを武器に宿している。故に脆い。些末な問題で躓く。些末な変化に戸惑う。 バカだ。 飛白は貶し、叩き伏せた。圧倒的優位を以て。 しかしリクは負け際に己を貫いた。その気になれば飛白を斬られた所で刀を叩き落としにかかったのだ。そこで無意味な優しさを出さなければ飛白に一太刀報いるくらいは出来た。実際飛白は片腕を麻痺させられた。リクの実力は、武技は高いラインにある。 そこは飛白も認めていた。 そして認めた頃から、飛白の中でささくれのように気にしていた疑問が肥大化し始める。
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