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飛白の顔が間近にある。
思わず面食らった。飛白の爛々とした両目は雄々しくも澄んでいる。じっと黛の顔を見据えていた。反らす事を許さないように。半開きの口から零れる激しい吐息が顔に当たる。汗と血と肉が重なった生々しい匂い。
黛は乱れた思考を懸命に立て直す。抵抗を試みる。されど馬乗りになり、元来持っている怪力を駆使して抑え込んでくる飛白に黛の抵抗は無意味だ。現実を思い知る度に黛の思考は乱れる。理性では操作しきれない。
「負けだぜ、黛。」
「なっ…!」
「俺の勝ちだ、黛。」
飛白は誇らしげに笑った。歓喜が伝わる。宣告がより動揺に拍車をかける。
「バカをっ…まだやれる!」
「吹くなよ。ステゴロで俺に勝てんのか?」
「舐めるな…!」
黛は気付く。
普段の自分なら、潔く降参する筈だ。無駄な意地は勝機を失す。今は堪える時だ。だが出来ない。その選択肢を選べない。理性ですら選択を拒絶する。
何故?
何故?!
何故!!
「…てめぇ、軟弱だなぁ。絞めすぎてるつもりはねぇんだがな。」
「何…?」
「顔色悪いぜ、お前。真っ青だ。」
黛は気付いた。
飛白は抵抗出来ないように力を入れているだけだ。息を止める程本気を出していない。黛の顔色が悪くなる筈が無い。
答えは簡単だった。
黛は、
、、、、、、
恐怖している。
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